SALONE サローネ便り 一

手を通して、
はじめてわかる

当院には、いまでは世界のどこでも作られていないレーザーが、いくつもあります。作られなくなると知ったとき、医師は決めました。その機械にしか出せない光を、自分の手に移しておこう、と。

MACCHINA 機械

手に移し、見返し、分解する

照射を重ねて、一台ずつ、その光の癖を手に覚えさせました。もう、手の中に入った。そう思えるところまで。

それでも、ときどき見返したくなります。あの光は、どうやって生まれていたのか。手に入ったと思っていたものの中に、まだ見えていないものがあるのではないか。だから、いまも機械の手入れを続けています。

役目を終えた機械は、最後に自分の手で分解します。部品を一つずつ外していくと、開発した人たちが何を考えていたのかが、ようやく見えてきます。説明書にも、論文にも書かれていなかった意図です。

レーザーの本当の働きは、そこまでして、はじめてわかる。私たちは、そう考えています。

MANI 手

受け取ったものを、そのまま使わない

手術の技術も、同じです。

当院の医師は、日本の形成外科がまだ若い学問だった頃、新しい手術を自らの手で切り拓いた先生方から、直接教えを受けてきました。けれど、教わったことを、教わったとおりに繰り返してきたわけではありません。

目の前の顔に当てはめ、自分の手で確かめ、年月をかけて見返す。そうして一度、自分の中を通したものだけが、本当に使える技術になります。皮膚の厚みをどう読むか。どこまで切り、どこで止めるか。十年後にどう変わるか。その見立ては、手順書には書けません。

SEDIA 椅子

座ってみなければ、わからない

診察室の椅子とテーブルは、カッシーナです。マルニ木工の家具もあります。そのほとんどは、いまではもう売られていません。張り地から選んで仕立ててもらった、世界にここにしかない一脚もあります。

選んだ理由は、カタログには書いてありません。実際に座り、何年も使い続けて、ようやくわかったことです。長く身を預けても疲れない。形がくずれない。椅子もまた、手と体を通して、はじめてわかるものでした。

名のある家具でも、名のある作り手の器でも、遠慮はしません。本当に自分の手に乗せるためには、一度、壊してみる。服もそうです。老舗のメゾンの古いコレクションも、ばらして、自分のために仕立て直してきました。

TRADIZIONE 伝統

伝統は、守るものではない

岡本太郎は、伝統を過去のものとは考えませんでした。いま、この瞬間に、自分の中を通してつくり上げていくもの。私たちも、そう考えています。

もう作られていないレーザーも、草創期の先生方から受け取った技術も、もう売られていない椅子も、そこにあるだけでは意味がありません。毎回、目の前の一人に向き合い、自分の手を通して、いま、つくり直す。伝統は、過去にあるのではなく、毎回この診察室で生まれています。

それは、自分自身に対しても同じです。手に入ったと思った技術も、昨日までのやり方も、もっと良いものが見えたら、ためらわずに蹴飛ばす。これまでの自分に、しがみつくことはしません。昨日の手より、今日の手です。

手を通したものだけが、本当にわかる。

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