COLUMN 副院長より

言葉を正しく使うことは、
治療を正しく行うことです

光の治療について、私が学会誌に送った一通の手紙のことと、その手紙にこめた思いを、少しお話しさせてください。

01

一通の手紙

2023年、日本形成外科学会の学会誌に、光の治療器でやけどが起きた症例の論文が載りました。治療を受けた方ご本人が、やけどになるほどの治療だったと気づかないまま過ごしていた、という内容です。光の治療の危うさを広く伝える、大切な論文だと思いました。

ただ、その中で、光の熱で温める治療が「LLLT(低反応レベルレーザー治療)」の一種として書かれていました。ほんの小さな言葉の違いです。けれど、このままでは誤解が広がってしまうかもしれない。そう思い、学会誌の編集委員長にお手紙を書きました。

手紙は同じ学会誌に載せていただき、編集委員長からも、ご指摘のとおりですとのお返事をいただきました。

手紙でお伝えしたこと

一、キセノン光は、いくつもの波長がまざった光で、レーザーではありません。キセノンランプの光の熱で温める治療器です。

二、「低反応レベル」とは、熱を伴わない光の反応のこと、つまり肌の中で起きる反応の種類を表す言葉です。機械から出る光の強さを表す「低出力」とは、別のことを指しています。

三、LLLTは、もともと温めて治す治療ではありません。熱を伴わない光の力で治療するため、本来はやけどを起こさない治療です。

02

言葉が混ざると、見え方が変わります

レーザーと、IPLやキセノン光のような光の治療器は、どちらも「光を当てる治療」に見えます。けれど、光の性質も、肌の中で起きることも違います。IPLが登場したときにも、レーザーと混同されたことがありました。

「低反応レベル」と「低出力」も、よく似た言葉です。片方は肌の中で起きる反応の種類を、もう片方は機械の光の強さを表しています。

言葉が混ざったまま広まると、「弱い光だから安全」「レーザーと同じだから効く」といった思い込みが生まれます。治療を受ける方も、治療をする側も、自分が何をしているのかを正しくとらえにくくなってしまいます。

03

光は、思っているより大きく反応します

光は、目に見えないところで、思いのほか大きな反応を起こすことがあります。同じ機械、同じ設定で照射しても、その日の肌の状態によって、肌の受け止め方はまったく違います。日焼けのあと、乾いているとき、目に見えない炎症があるときには、なおさらです。

そして、やけどは、その場では気づかないこともあります。最初にご紹介した論文が伝えていたのも、そのことでした。

だからこそ私は、機械の名前や画面に出る数字だけを頼りにせず、その光がいま肌の中で何を起こしているのかを、いつも考えていたいと思っています。

04

見て、触れて、確かめる

肌の状態は、目に見えるものだけではわかりません。照射の前には、肌をよく見て、指で触れて確かめます。医師の言葉でいう「視診」と「触診」です。

見て、わかること

色やくすみ、赤み、つや、毛穴、小さな湿疹のはじまり。

触れて、わかること

肌の厚みややわらかさ、乾き、温かさ、むくみ。目では見えない炎症の、かすかなざらつき。

こうして確かめたことをもとに、その日に使う光と、その強さや順番を組み立てます。照射している間も、一ショットごとに肌の様子を見て、触れて、必要があればその場で変えていきます。

決まった手順のとおりに当てるのではなく、その日の肌に合わせて組み立てる。機械の良いところを引き出すのも、危うさを避けるのも、照射する医師の目と手だと考えています。

ですから当院では、どのレーザーにするかを、患者さんご自身に選んでいただくことはありません。何が気になっているのか、どうなりたいのかをお話しいただき、医師と相談しながら決めていきます。そして照射は、肌を診た医師が自ら行います。

05

なぜ、医師が照射するのか

経営のことだけを考えれば、照射をスタッフに任せて、何人もの方を同時に治療するほうが、ずっと効率はよいはずです。

それでも当院が、照射を医師にこだわるのには理由があります。光は思いがけず大きく反応することがあり、その反応を一ショットごとに見極めるには、肌を診断する目が必要です。赤みが光の反応なのか、もともとの皮膚炎なのか。今日はこのまま続けてよいのか、強さを変えるべきなのか。その判断と、その結果への責任は、診察した医師が負うべきものだと考えています。

医師が一人ずつ時間をかけて治療するので、一日にお受けできる人数は限られます。それでも、この形を変えるつもりはありません。肌は、取り替えのきかない、その方だけのものです。お一人おひとりの患者さんを大切にしたい。その思いが、医師が自ら照射する理由のいちばん根っこにあります。

06

一つひとつの言葉と、一つひとつの照射を

言葉を正しく使うことは、自分が何をしているのかを、正しく知ることです。それは、治療を正しく行うことにつながっていると、私は思います。

これからも、一つひとつの言葉と、毎月の一つひとつの照射を、大切にしていきます。

副院長 小川 基美(日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医・日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医)

小川基美「『キセノン光治療により皮膚障害を起こした1例』(日形会誌, 43:12〜17, 2023.)に対する意見」日本形成外科学会会誌 43巻4号 221ページ(2023年)

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